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4. お召列車を見に行こう!

 さて、一通りお召列車の事を説明して、次はいよいよ、実際にお召列車を見に行く段階を説明する。
 そもそも、お召列車はいつ運転するのか。一番わかりやすい調べ方は、インターネットなどで、皇室関連のニュースや官報を毎日チェックすることである。官報の場合は、行幸啓の1〜2週間くらい前に、宮内庁の公式発表した御日程が、「皇室事項」の項目に掲載される。その御日程の中に、例えば図1のように「東京駅御発、京都駅御着」などの記述があれば、東京―京都間でお召列車が運転されることがわかる。



図1 官報の皇室事項


 しかし、この官報では、天皇皇后両陛下の公式の行幸啓などしか掲載されず、非公式であったり、皇后陛下以外の皇族方の行啓であったりすると掲載されない。そこで、その足りない部分はインターネットやテレビなどの皇室ニュースで補うのだ。「○○日に皇太子殿下が山梨県ご訪問」という内容であれば、その日に中央本線で御乗用列車が走るであろうことが予想できる。しかし、これらの内容はいつ発表されて掲載されるかわからないため、毎日毎日粘り強く見続けることが大切である。
 そして、運転されることがわかったら、当日へ向けた準備に取り掛かる。これはまず、普通の鉄道写真撮影と同じく、撮影ポイントを決定する。ただ、ここで注意しなければならないのが、当日あまりにもその撮影ポイントに人が集まりすぎて周りに迷惑がかかったり混乱が起きたりすると、沿線警備の警察に立ち退きを求められることがある。そのため、候補地をいくつか決めておくとよい。
 また、当日までに誰もが気になることは、お召列車のダイヤだろう。基本的にお召列車のダイヤは国家機密で公表されないし、もちろん市販の時刻表にも載っていない。そこで、在来線でE655系などで運転されるときには、1か月ほど前から何回か繰り返し試運転が行われるため、その情報を得てダイヤを把握しておく。しかし、特に新幹線や、在来線でも普通の特急の車両を使う場合は、試運転があったとしてもそれを確認するのは難しく、当日までダイヤがわからないのが普通である。こういう時は、早めに現地に行くしかない。鉄道ファンなら、当日ホームにある業務用の時刻表を見て予想できるかもしれないが。
 そして、当日になったら、まずしっかり持ち物を確認する。場合によっては、沿線警備の警察に身分証明書の提示を求められる場合があるので、念のため、身分証明書を持っていくと良い。また、同時に手荷物検査も実施される可能性があるため、持ち物は必要最低限の物だけにした方がよいだろう。
 現地に到着する時間であるが、E655系が特別車両を連結して運転される場合は、多くの鉄道ファンが集まるため、始発列車でできるだけ早く行って場所取りをする。新幹線の場合は、運転されることすら知らない鉄道ファンがほとんどで、人気もないため、場所取りの心配はない。しかし、ダイヤがわからないため、例えば東京駅から出発される場合は、8時台、遅くとも9時台に行っておくと確実である。
 そういった過程を経て、お召列車が発着するホームへ行くと、まず目に入ってくるのが、駅のコンコースやエスカレータ、ホームを入念に掃除する清掃員の姿である。



写真5 清掃員

 両陛下が来られる何時間も前から入念に行われており、皇室の威厳と格式の高さが伺える。さらに、1時間ほど前になると、ホームに黒服の集団がやってきて、ここで一気に緊張感が高まる。沿線でも、1時間ほど前から警察による警備が始まるため、しっかりと指示に従う事が必要である。また、場合によっては、テロリストが鉄道ファンに紛れてカメラ型の銃を所持していないかを調べるという理由で、カメラの作動検査を行う場合もある。
 15〜30分前。ホームでは、キヨスクの閉店、ゴミ箱の封鎖などが行われ、陛下の通路に合わせてロープなども張られ、いよいよその舞台が整っていく。また、この辺で報道陣も続々と到着する。



写真6 キヨスクの閉店/写真7 ゴミ箱の閉鎖

 また、自動販売機も使用中止になるため、暑い日は特に、飲み物の購入は早めにしておきたい。
 お召列車の入線時間になると、ホームで駅員が一斉にお辞儀をしてお召列車を迎え入れる。そして、お召列車発車の1〜2分くらい前に、駅長の先導でSPとともに、天皇皇后両陛下がお姿を現す。



写真8 天皇皇后両陛下

 そして、出発時間。駅長は敬礼、駅員はお辞儀をして、お召列車はゆっくりとホームを発車していく。ホームからも、車内から笑顔でお手を振られる両陛下のお姿が見える。



写真9 敬礼する東京駅長

 こうして列車が発車していくと、一気に緊張が解けたようになり、またいつもの人々が行き交う駅へと戻っていくのだ。
 そして、発車したお召列車を待ち構える沿線では、ここから緊張が高まっていく。お召列車の直前を走る列車である、「露払い列車」通過すると、それまで和やかだった空気が緊張感を含んだ異様な空気に変わる。すると、在来線の場合は、彼方に強い明りをつけたヘリコプターが見えてくる。お召列車の頭上を飛んで、空から警備しているのだ。そのヘリコプターが近づいてきた時、線路の彼方にヘッドライトと菊花御紋がキラッと光る。シャッターチャンスを見計らってシャッターを切る。そして列車に手を振ると、特別車両に据え付けられた菊花御紋の上の窓に、笑顔でお手を振られる天皇陛下のご尊顔を拝見する。
 そしてお召列車は通り過ぎていき、お召列車撮影は幕を閉じるのである。


5. 番外編・実は鉄道ファンだった!?昭和天皇とお召列車

 ここまで読んでくださった感謝の気持ちを込めて、おまけでお召列車のちょっとした面白いエピソードを紹介する。


・先頭の機関車が見たい

 1953年にお召列車本務機のEF58-61形機関車が製造され、それが初めてお召列車の運用に入った時、その機関車のデザインの美しさを聞きつけた昭和天皇は、「先頭の機関車が見たい。」と仰って、中間に連結されている御料車のところから自ら先頭へとホームを歩いて行かれて、その機関車を大絶賛されたという。


・運転席が見たい

 初めて新幹線によるお召列車が運転された時、昭和天皇は新幹線の運転席がどうしても見たいと仰った。しかし、警備上の都合などでそういうわけにはいかず、側近の人に止められたのだが、どうしてもということで、誰にもばれないようにこっそり見に行かれた。


・切符を買ったのが思い出

 昭和天皇が皇太子時代、ご学友とともに、普通に券売機で切符を買われ、改札を通って普通の電車に乗られた。昭和天皇は、晩年にもそのことをいい思い出として語られていたという。


6. おわりに

 山手線、新幹線などと言えば、鉄道ファン以外の人にもわかりやすい。そうでなくとも、仮に285系とか遠州鉄道とか、ちょっとマニアックなものを出しても、まだイメージしやすいほうかも知れない。しかし、お召列車というのは皇室という特殊なものと関連しているもので、普段生活しているぶんにはなかなか馴染みがないテーマだ。そこで、今回は鉄道ファン以外の人にもわかりやすいように平たく書いてみた。それゆえ、鉄道ファンの方にはちょっと物足りなさや気になる点があったかもしれないが、ご容赦いただきたい。そして、この記事で、そんな馴染みのないお召列車を少しでも身近に感じてもらえればと思う。本当に、日本の鉄道の最高峰と呼ぶにふさわしい列車であるから。


参考文献
  • 白川淳:「御召列車 知られざる皇室専用列車の魅力」、マガジンハウス、2010年
  • 「国鉄時代vol.33」、ネコパブリッシング、2013年



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