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社会交通工学科2年 2054番 齊藤 浅里 |
1. はじめに 近年、鉄道ファン人口は急増している。撮り鉄(列車の写真を撮る鉄道ファン)をはじめとして、音鉄(列車の走行音やアナウンスを録音したり聴いたりする鉄道ファン)、模型鉄、乗り鉄(列車に乗ることを楽しむ鉄道ファン)といった、鉄道ファンの中でも様々なジャンルが発達していると言える。また、そのジャンルの中でも更に細分化されているものも存在する。例えるならば模型鉄といってもNゲージ、HOゲージ、Bトレインと様々な鉄道模型が存在し、模型鉄によって専門が異なる場合もある。 今回、私の記事で取り上げるものは「寝鉄(ねてつ)」である。これは乗り鉄の列車に乗って楽しむという主旨に加えて、「列車に乗りながら寝る」ことを目的とした鉄道ファンの分野である。寝鉄というものは基本的に鉄道ファンでも普及している言葉でも無い。私以外にこの言葉を使う人物がいるかも分からない。そのため私がこの「寝鉄総論」として寝鉄について確立しようと思う。 2. 寝鉄とは 列車の中で寝るポイントを紹介しようと思う。ここで紹介するシチュエーションは普段の通勤・通学で使うような列車であり、基本的にはロングシートの車両を想定している。特急形車両や寝台列車のような睡眠につきやすいものは除いてのポイントである。 まず、列車の中で睡眠をとる大前提は車両のシートに着席することだ。座っている状態でなければ寝ることは難しい(上級者ならば立ったまま寝ることもあるかもしれない)。席を確保できるか否かは朝の通勤・通学ではとても重要なことである。そのため、席を確保するための方法も会得していなければならない。列車に乗る時間帯や、乗車する駅と終点の駅の位置関係など様々な要素はあるが、基本的に列車に着席するポイントは空いている列車に乗ることである。また、始発の電車に乗るというのも常套手段である。これらの方法は、席を確保するための最善の策である。ラッシュがピークを迎える時間帯では来た電車が既に缶詰状態ということも考えられる。そういった場合は時差通勤・通学を行うといいだろう。いつもより早めの列車を利用すると、混雑度が少ない場合が考えられる。席が既に埋まっている状態でも車内が比較的移動できる場合であれば、すかさず席の前で立つことが重要だ。もし立っている前に座っている人が降車した場合、その空いた席を確実に確保できるからである。しかし、どの人がどこの駅で降りるか判断するところが一番難しい。自分の運も見方につけなければならない場合も有るだろう。また、いつも同じ列車ならば、決まった席に決まった人が座っているかもしれない。そういったパターンを把握するのも有効だろう。 席が確保できて着席できたのならば準備は整ったといえる。目を閉じて眠りの世界へ向かうだけである。寝る場合には自分の楽な体勢を見つけたり、好きな音楽を聴いたりするのもいいだろう。一番良い体勢をとるには比較的、角席(ロングシートの端の席)が有効である。仕切板にもたれ掛かれるというメリットを持っているからだ。製造が古い車両においては仕切板が存在しない場合もあるのでこれに当てはまらないこともある(写真1)。仕切板はもたれ掛かった時に肩まで高さのあるものが寝やすいと考えられる。また車両の端部の席は横が壁になっている場合もあるので、この場所も寄りかかって寝やすいだろう(写真2)。 写真1 左:東急5050系(Hikarie号) 右:西武101系 写真2 車両端部の座席 3. 寝過ごし 寝鉄を楽しむうえで最も注意しなければならないことは「寝過ごし」である。寝過ごしとは、本来降車する駅を眠っていて降りることを忘れそのまま乗り続けてしまうことである。寝過ごしはキセル乗車(不正乗車)となる場合がある。そのため、極力寝過ごしは回避しなければならない。寝過ごして降車した駅までの運賃を支払った乗車券が無ければ不正乗車だろう。 仮に寝過ごしをしてしまった場合の対処法は大きく分けて2つある。まずは寝過ごしてしまったことを駅員に自己申告することである。おおかたそのまま本来の降車駅まで戻るように指示を受けるはずである。駅員の指示を受けずに引き返してしまうのは不正乗車となる場合があるので注意が必要である。2つ目の対処法は、寝過ごしてしまった分の運賃を精算することである。料金精算機で超過分の運賃を支払うことでそのまま下車することが出来る。ただしJR線等で販売されている下車駅が指定されている切符では、この方法は使用できない。 4. 寝鉄と寝台列車 寝鉄を楽しむのはもちろんいつも乗っているような通勤形車両だけではない。寝鉄なら一度は乗車してみたいのが寝台列車である。寝台列車とは主に夜から朝にかけて日を跨いで夜通し運行される列車である。車内にはベッドが設けられており、晩年は「走るホテル」とも賞賛された。現在は他の交通機関の発達により利用者が減少、寝台列車はその数を減らしつつある。東海道を走った富士、はやぶさ、みずほ、さくらといった寝台列車も今はその姿を見ることは出来ず、東海道を走る寝台列車は285系電車で運行されるサンライズ出雲・瀬戸(東京〜出雲市・高松)のみである(写真1)。また北へ向かう寝台列車においては北斗星をはじめ、あけぼの、豪華客車として知られるカシオペア(どちらも上野〜札幌)、日本一の長距離旅客列車であるトワイライトエクスプレス(大阪〜札幌)が現在でも運行されている。 長距離移動の際は深夜バスや飛行機などの運賃の安い交通機関が選択されがちだが、たまには寝台列車を使って旅に出ることも良いかもしれない。寝台列車には深夜バスよりも朝早く目的地へ到着できるというメリットを持った路線もあるので有効活用したい。また、寝台特急カシオペアの「カシオペアスイート(展望型)」や寝台急行はまなす(青森〜札幌)の「のびのびカーペットカー」といった人気の席・個室は指定席が販売されるとすぐに売り切れてしまう。こういった人気の席を獲得して寝台列車を楽しむのも寝鉄のみならず鉄道ファンの憧れだろう。 写真3 東京駅で出発を待つサンライズエクスプレス 5. 寝鉄のためのお勧めしたい車両としたくない車両 私の個人論も含まれるが、列車の中で寝る際には、寝るのに適した車両(寝やすい車両)と、そうでない車両は幾分か存在すると考えている。柔軟に環境に対応できる人ならばどんな列車でも睡眠をとることが出来るかもしれないが、普通の人ならある程度の好みがあるかもしれない。ここでは私の独断と偏見で一部の車両の解説をする。対象とするのは普通・快速列車で利用される指定席料金が必要の無い列車で使用される車両である。 5-1. お勧めの車両 5-1-1. E233系 E233系電車は、JR東日本の首都圏路線で幅広く活躍する次世代高機能車両である。201系、203系、205系といった国鉄時代からの車両を淘汰しつつある。現在では中央線、京浜東北線、常磐線(各駅停車)、京葉線、東海道線、東北本線、高崎線、埼京線等で運行されている車両だ。通勤形・近郊形で車内配置が異なっている。通勤形はオールロングシートなのに対して、東海道線、東北本線、高崎線等で使用される近郊形はセミクロスシートを採用している。 E233系のシートは比較的座り心地が良いほうだと考えている。また仕切板は肩の高さまで十分確保されており、人の肩にはまるようにくぼみが設けられているのも好感だ。車両端部の座席においてもくぼみがあるのでこちらの席の寝心地は良さそうだ。 写真4 E233系電車(中央線) 5-1-2. 115系 115系電車は、JR東日本に限らず西日本等でも活躍する国鉄型電車である。現在でも、JR東日本の管轄内では中央線、大糸線、篠ノ井線、上越線、両毛線、信越線等の広範囲で使用されている車両である。路線によって塗装は様々で数多くのバリエーションが存在する。一部区間では老朽化が進み、順次新車への置き換えが始まっている。車内は基本的にセミクロスシートを採用しており、国鉄型ならではの薫りのするシートが心地良いだろう。 写真5 115系電車(信越線) 5-1-3. 719系 719系電車は、東北本線、仙山線、奥羽本線、磐越西線等で使用されている。3ドア車両でセミクロスシートの配列である。クロスシート部分は見合い型を採用しており、ボックス部分の後ろは同じ向きの席が配置されているのが特徴だ。この車両のシートは普通列車の中でも特に乗り心地が良いと私は考えている。乗車した時、シートの座り心地が良いのでとても寝やすかったのを覚えている。 写真5 719系電車(東北本線) 5-2. お勧めしたくない車両 5-2-1. 107系 JR発足後、JR東日本が始めて製造した通勤形車両である。主に上越線、信越本線、吾妻線、両毛線、東北本線で使用されており、オールロングシートの座席配置である。前述の115系と走行している区間が同じ部分が多い。107系電車に乗るのであれば115系の方が良いと思う。115系が基本的に3両編成なのに対してこの107系は2両編成で運行されることが多いので車内混雑は免れない。仕切板は無いので角席でも座り心地はイマイチである。 写真7 107系電車(信越線) 5-2-2. 701系 東北地区で活躍する701系は鉄道ファンの間でも良い評判は聞いたことがない。18キッパー(青春18切符で旅をするのを好む人)の最大の難関が701系であろう。701系はオールロングシートの座席配置で(田沢湖線を除く)、3ドア、基本2両編成である。701系が導入される前の車両はセミクロスシートであったため、701系が導入されてからは地元住民からの苦情もあったと言われている。ロングシートになった分、ラッシュ時の乗降はスムーズになったようだ。ただ黒磯〜郡山といった長距離で運転される701系に乗車するのは体に堪えるものがあるかも知れない。唯一の救いは角席の仕切板が大きく作られているところだろうか。701系電車での睡眠は難しいと考えられるが、この電車で寝ることが出来るのならば寝鉄上級者と言えるかもしれない。 写真8 701系電車(東北本線) 6. おわりに 今回のエクスプレスでこの記事を書こうと思ったのは、私自身、電車で寝ることが好きであったからだ。寝鉄という新しいジャンルが今後発展するかは不明であるが、私はこの寝鉄を続けていきたいと思う。皆さんも自分の寝心地のよい車両を見つけ出して寝鉄ライフを楽しんで欲しい限りである。 今回、私の記事で取り上げるものは「寝鉄(ねてつ)」である。これは乗り鉄の列車に乗って楽しむという主旨に加えて、「列車に乗りながら寝る」ことを目的とした鉄道ファンの分野である。寝鉄というものは基本的に鉄道ファンでも普及している言葉でも無い。私以外にこの言葉を使う人物がいるかも分からない。そのため私がこの「寝鉄総論」として寝鉄について確立しようと思う。 参考文献
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