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社会交通工学科2年 2021番 内山 岳洋 |
1. はじめに 「お召列車」。それは、明治5年、新橋−横浜間に日本で初めての鉄道が開業して以来、140年余りにわたる歴史の中で、長きにわたって日本の鉄道の最高峰として謳われる、孤高の存在である。天皇陛下がまだ神様だとされていた明治の頃から、その行幸、もしくは皇族方との行幸啓の輸送などを担ってきた。 専用の車両で運転された場合など、茶色いシックな装いの列車が日章旗と菊花御紋を掲げて走る姿は、多くのファンを魅了してやまない。しかし、普段はほとんど目にすることのない存在であるが故に、多くの国民にとって馴染みのない列車である。そこで、この記事では、そんなお召列車のことを鉄道ファンでなくてもわかりやすいように、簡単に紹介してみようと思う。 2. お召列車とは お召列車とは、昭和40年に定められた「御召列車運転及び警護規定」によると、「天皇陛下及び皇后陛下の御乗用として、特別に運転する臨時列車をいう。」とされており、現代でもこの定義が用いられている。また、天皇陛下、皇后陛下がご乗車される場合でも、一般の定期特急列車の一部の車両を貸切ってご乗車される場合(つまり、特別に運転される臨時列車ではない場合)、もしくは皇太子殿下、皇太子妃殿下がご乗車される場合は、お召列車ではなく、御乗用列車と呼ばれる。また、これらの定義はあまり知られていないため、お召列車の意味を広くとらえ、マスコミなどでは皇室の方がご乗車されている列車を総称してお召列車と呼ぶこともある。 3. お召列車の車両 お召列車といえば、やはりその専用の車両が注目されるところであろう。通常の新幹線や特急車両を防弾仕様にして使うこともしばしばであるが、お召の専用車両が使われた時の編成は格別だ。そこで、今回は平成になってから使用された、3つの車両について紹介する。 3-1. 3代目1号御料車 写真1 1号御料車(模型) 「1号」。そう銘打たれたところから、ただならぬ雰囲気を感じるこの車両であるが、もちろんすごいのは名前だけではない。この車両は、戦前から使われてきた御料車が老朽化したことを受け、1960年に、当時のブルートレインの車両を作る技術を生かして新たに製造された。それ以来、戦後日本におけるお召列車の代名詞的な存在として活躍し、昭和天皇・皇后両陛下、今上天皇・皇后両陛下、国賓がご乗車になった。 過度な装飾を抑えたシックな装いは、まさに日本独特の質素でつつましい雰囲気を醸し出しており、その美しいデザインからも人気を博した。それほどまでに輝かしかった1号御料車の素晴らしさは、2002年の運転を最後に引退した今でもなお、一部のファンに「1号御料車でなければお召じゃない!」とまで言わしめているほどである。 3-2. クロ157系貴賓電車 写真2 貴賓電車(模型) さて、この車両も、先ほどの「1号」と同じように、「貴賓」という言葉にその雰囲気を感じる。それまでのお召列車が客車を機関車が引張る形であったのに対し、この車両はその名の通り、機関車を必要としない普通の電車で作られ、機関車連結のコストを削減し、速度の向上も達成した。 しかし、そんな便利な車両であったのだが、この貴賓電車の用途はあまり華々しいものではなかった。1号御料車が公式行幸啓などで全国をまたにかけて使用されたのに対し、貴賓電車は、御静養に向われるときなどの非公式の私的なご移動や、国賓のちょっとした短距離移動を担うに過ぎなかった。一号御料車をホームランバッターに例えれば、貴賓電車はバント職人と言ったところだろう。そしてこの車両も、1990年に葉山御用邸での御静養から帰られる皇太后陛下(皇潤皇后)がご乗車されたのを最後に、現在まで使用されていない。 3-3. E655系特別車両 写真3 特別車両 「1号」、「貴賓」と来て、最後は「特別」である。1号御料車と貴賓車が現役を引退しているのに対し、この特別車両は2008年に製造されたばかりの新しい現役車両である。マジョーラ塗装と呼ばれる、光の当たり方によって茶褐色から紫色にまで変化する特殊な色をベースに、3本の金色の帯を入れたシンプルな装いで、1号御料車のシックな雰囲気を引き継いでいる。 写真4 E655系 そして、このE655系と呼ばれる車両は全部で6両あり、そのうちの1つはこの特別車両であるのだが、残りの5両(お召列車の時は、警察や宮内庁、鉄道会社の人が乗る)には、なんと一般の人も乗車できるのだ。普通に旅行会社などが企画するツアーで、お召列車に使われるE655系に乗ることができる。もちろん他の5両で、さすがに特別車両は連結されないのだが、お召列車の格式他界高い雰囲気は存分に楽しめるかもしれない。 このように、皇室関係者しかご乗車できない車両を紹介してきたが、もちろんお召列車には、普通の一般人が特急列車などで乗ったりする車両が使われることも多い。それどころか、一般の人が普通に乗っている特急列車の数車両を貸切って皇室の方がご乗車されている場合もある。つまり、自分が乗っている車両のすぐそばに天皇陛下がいらっしゃるということもあり得るのだ。もちろん、同じ車両とか、ましてや天皇陛下が隣の席なんてことはないが、これからは列車に乗るときは、もしかしたらすぐ近くにいらっしゃるかも知れない。
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