←前のページへ 次のページへ→
〜 鉄道模型 信号機を製作する 〜

電気工学科3年 HOZULAB

1. 総説

 鉄道用信号機は、定義など述べることなく鉄道の線路脇に有る一般の道路に設置されている交通信号機とは違っている物である。今回は、鉄道模型(1/150)で点灯するタイプの信号機(三灯)を安く製作した記録である。


2. 市販されている模型用信号機

 現在、TOMIX社、KATO社など鉄道模型を扱う企業から鉄道用信号機(以後 信号機)が発売されている。私はこれらの市販物を購入したことが無いものの、現物をジオラマなどを通じて見てきた。そこで、市販されている模型における問題点を挙げると次の点がある。まず一つ目に、奥行きが実際のスケールよりも長い。二つ目に支柱と一体化している。三つ目に買う側から点灯タイプの市販信号機はTOMIX社の型番5572商品名TCS3灯式信号機WP(F)が定価4,410円(本体価格4,200円)などと高価である。これらの模型用信号機は、列車検知センサーも搭載している。


3. 模型をつくる

 製作する模型用信号機は、信号機本体に加えセンサー、制御の一式である。これらすべてをまとめ、市販されている模型用信号機と比較を行う。


3.1 理想とする模型用信号機

 理想とする模型用信号機は、2章に記載した問題点のうち価格を除いた2項目を持たないことである。そして、問題点の価格については、実際に製作した上で考察する。


3.2 信号機の規格

 模型を作る上では、写真を撮影した実測データも重要ではあるが、日本工業規格(以後JIS)に掲載された内容についてを信号機の規格と今回は扱う。現在のJISには掲載されていないが、かつて存在したJIS規格を国立国会図書館より入手し、寸法について計算する。
 信号機の背版はJIS規格では縦1020mm、横580mm、電球中心から隣接する電球中心までの長さ220mmなどであり、これらを基に1/150に計算し直す。
 計算より、背版の縦は6.8mm、横3.9mmである。なお、奥行きについては当JISには記載されていなかったため、中央総武線御茶ノ水秋葉原間の信号機の写真(写真1)より求めた。求め方については、JISに掲載されている金具と電球幅を基に計算した。写真から奥行き183.5mmであると推定し、これは1.2mmであることがわかる。



写真1 中央総武線御茶ノ水秋葉原間の三鷹方面に設置されている信号機

 こうして、JIS規格などから模型で使う寸法を求めた。この寸法を基に、製作をする。


3.3 模型用信号機の作成

3.3.1 模型用信号機の構造について

 3.2項で求めた寸法より、点灯部を入れた構造について考える。構造は実物の組み方とは異なり、背版とひさしを一体化し黒色表面板として製作、その上に点灯モジュールを重ね、点灯モジュールを囲むように覆いをかぶせ、最後に塗装をする。


3.3.2 黒色表面板の製作

 黒色表面板は、実際にプラスチック辺を削り、1/150スケールでJIS規格の穴の位置などを再現し、それを原型として比較的安価で入手できる「おゆまるくん」とエポキシ樹脂接着剤を用いて製造する。このとき、エポキシ樹脂接着剤にはアクリル絵の具の黒色を少量混ぜることにより、完成後に塗装することで形が崩れることを減らした。



写真2 おゆまるくん/写真3 エポキシ樹脂接着剤とアクリル絵の具(黒)

 完成した表面板はこのようになる。



写真4 表面板


3.3.3 点灯モジュールの製作

 点灯モジュールは、奥行きの関係からチップLEDを使うことにし、ほかの材料については次の表1と写真5に示す。

表1 点灯モジュールの材料
型番・名称販売場所価格
白色チップLED OSWT1608(20個)秋月電子200円
黄色チップLED 590nm OSYL1608(20個)秋月電子200円
赤色チップLED 型番など不明(ジャンク)(100個以上)aitendo99円
ポリウレタン線 0.1mm 長さ20mシオヤ無線40円




写真5 LED




写真6 ポリウレタン線

 赤色チップLEDは、aitendoの店頭でジャンク売りされているCPUチェッカーに実装されている部品を用いる。1枚の基板には100個を超えるLEDが実装され、そのため基板からLEDを外して使うことにした。このほか、赤色チップに限っては、秋月電子の赤色チップLED OSHR1608 35mcd(20個)200円でも代用できる。
 このチップLEDをこのような回路でポリウレタン線を用いて結線する。ここで、LEDをテープで固定し、ポリウレタン線を空中配線した。そのときの写真が写真7〜9である。



写真7〜9 配線風景

 この配線したLEDを、半田面側から黒色絵の具を混ぜたエポキシ樹脂接着剤を流し、モジュールにした。


3.3.4 組み立て

 点灯モジュールと表面板を接着剤で固定し、これで塗装をする場合はさらに塗装を加え大部分はできあがる。
 つぎに、市販されている模型用信号機には支柱があるため、支柱となる管をつける。今回使用した管はステンレスノズル300mm(JS500 80円 カインズホーム SUNAMO店にて購入)で、実際の写真から長さを推定して切断し、管の中間に穴を開けポリウレタン線を通す。これで模型用信号機本体は完成とする。


3.4 列車検知センサーの製作

 列車検知センサーは、実際に市販されている物は車輪が線路上に設置したスイッチを押すことで反応する物である。しかし、模型がスイッチ上を通過する時は車両に振動を加え、脱線などがおこることもありうる。そのため、非接触のセンサーを作ることにした。
 非接触のセンサーには赤外線接近センサーを使うことにし、秋月電子でフォトリフレクタ(反射タイプ)TPR-105(1個50円)を購入した。このTPR-105は赤外線LEDと受光がセットになっており、電流を流して赤外線LEDを点灯させ、反射物をセンサー上空にかざすと受光が電流を流す代物である。その様子を写真10に示す。



写真10 TPR-105の特性

 このTPR-105を線路に組むことで、列車検知センサーを完成させた。実物の写真を写真11に示す。



写真11 列車検知センサー


3.5 信号機制御

 市販されている模型用信号機は、センサーが検知すると青信号が赤信号に変わり、その後、黄色に変化し青に戻る。
 制御にはマイコンを用い、PIC12F675を使用した。PIC12F675は秋月電子で1個80円で販売している。12F675にアセンブラ言語でプログラムを打ち込んだ。プログラム内容については、紙面の都合上省略した。


3.6 組み立て

 信号機本体と列車検知センサー、信号機制御を接続させ、信号機を完成させた。全体の回路図を図1に示す。



図1 全体回路図

 このようにして、模型用信号機を完成させた。


3.7 動作

 動作には5V電源を入れるだけで動き、あとは線路上に列車を通過させるだけである。通過前と通過後の様子を写真12、写真13、写真14に示した。



写真12 通過前/写真13 通過後/写真14 通過後


3.8 製作にかかった費用

 製作にかかった費用(1セットあたり)を算出し、表2に示した。

表2 製作にかかった費用
チップLED白10円
チップLED黄10円
チップLED赤0.5円
ポリウレタン線0.8円
ステンレスノズル20円
TPR-10550円
PIC12F67580円
抵抗30円
コンデンサ5円
基板70円
合計206.3円

(抵抗・コンデンサ・基板は自宅にあるものを用いたが、千石電商・秋月電子でも購入できる。価格は購入の場合の金額)


4. 比較検討

 模型を作り、市販品と比べた結果、市販品よりも忠実に作ることができた。奥行きの厚みもより忠実に作り、市販よりも再現率は高い。制作費も206円ほどで破格である。だた、問題点があり、接近センサーは反射物によっては反応が鈍いことがある。そのため接近センサーは改良が必要である。そして、製作時間が接着剤の乾燥を除き原型製作を入れて平均6時間ほどかかった(*1)。時間がかかったのはLEDが小さいこと、ポリウレタン線が0.1mmであったことなど、小さい部品を使ったためである。

5. 結論

 とても安価に作ることができたが、一定の技量を持っていても製作には時間がかかり、作るよりも市販の模型用信号機を買った方が手間暇分、定価約4000円は安い(時間を値段に換算すると5100円なので(最低賃金 時給850円))。ただ手間は予想以上にかかるため、手間分が時給換算4000円を下回ることになろうと、メーカーの製造する4000円模型用信号機は実物に似て無くとも価値は妥当である。しかし、本物らしさを求めつつ手間暇掛けて良い場合は、製作するべきである。最終的には、製作にあたり手が器用で無ければ、作ることはできない。


参考文献
  • なければつくればいいじゃない。:http://nakerebalab.blog.fc2.com、2013年8月参照
(「なければつくればいいじゃない。」は、HOZULABの書いたブログである。このEXPRESSのHOZULABの記事は、ブログで掲載している内容をまとめ上げた物である。)
  • 厚生労働省東京労働局:「東京都最低賃金改正のお知らせ:平成24年」、http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei/chingin_kanairoudou/toukei/saitei_chingin/20081022-chingin.html、2013年8月参照
注釈
 *1 製作にあたり、原型の作り方をはじめ多くの製作方法を試行し、試作品を同時にいくつも製作したため、1個のみの製作時間ではない。(1個のみの製作時間は推定で原型を入れて4時間、原型無しで2時間、この時間に接着剤の乾燥時間は含めない)この場合をもっても、結論は変わらないとした。



- 37 - 次のページへ→