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社会交通工学科3年 1090番 T.D |
1. はじめに 「国内で東京から一番遠い場所」と聞いて、どこを思い浮かべるだろうか。距離で言えば、日本最西端の沖縄県与那国島が東京から2112kmで一番遠く、東京から飛行機を乗り継いで約5時間かかる。しかし、日本には距離的には東京から近くても、交通の便が悪く時間的に遠い場所が多く存在する。その中でも一番遠いのが、小笠原諸島である。東京から南に1000km離れた小笠原諸島に空港は無い。交通手段は6日に1便の定期船「おがさわら丸」のみで、東京から25時間半かかる。島民や観光客、小笠原諸島へ赴任する教員や警察官、自衛隊員など、小笠原諸島へ向かうすべての人がこの航路を利用する。今回は、この小笠原航路について記す。 2. 概要 小笠原航路に就航するおがさわら丸は、6,700トンの貨客船。その名の通り旅客と貨物の両方を輸送する。島民や観光客の輸送のほか、島民の生活物資を小笠原諸島に届ける役割も担っている。2011年に世界自然遺産に登録されてから観光客が増加し、観光シーズンには700人以上が乗船する。 船内には客室の他、レストランやカフェ、カップラーメンコーナーが設けられている。東京を10時に出港し小笠原諸島に翌日の11時半に到着するため、乗船客は昼食、夕食、朝食の3食を船内でとることになる。船内には映画館やスポーツルーム、ゲームコーナー、船内イベントなどは無く、食事と睡眠以外にはすることがない。乗船客は、本を読んだりトランプをしたり、それぞれが思い思いの時間を過ごす。本土から離れた海上を航行するため、携帯電話やインターネットはほとんど使用できない。乗船中は船外との連絡がとりづらいのが難点である。 3. 島民の生活 小笠原諸島で人が生活しているのは父島と母島の2つの島。このうち父島には約2,000人が生活している。元々の島民以外にも、小笠原の温暖な気候や自然豊かな環境に魅せられ、島に移住した人も多い。また、島に赴任する公務員も多くいる。小笠原諸島は東京都に属するため、島の都立高校や警察署に勤務するのは東京都の職員である。 おがさわら丸は6日に1便の運行なので、島への生活物資の輸送も6日に1度である。新聞や郵便物も、1週間分まとめて配達される。すべての物に輸送費がかかり、その分物価が高くなる。島での生活には不便が多いが、一番の問題は急病への対処である。島の病院で対応できない病気の場合、本土へ搬送して治療を受けることになる。しかし、船は6日に1便で片道25時間半を要するため、船ではすぐに搬送することはできない。もし急病になり、一刻も早く本土で治療する必要がある場合 1) 小笠原村長に緊急搬送を要請 2) 小笠原村長が東京都知事に緊急搬送を要請 3) 東京都知事が海上自衛隊に緊急搬送を要請 4) 海上自衛隊が使用可能な飛行艇(水上飛行機)を探す 5) 海上自衛隊が飛行艇に医師を乗せて小笠原諸島へ向かう 6) 病人を乗せて応急手当てをしながら本土の病院へ向かう という順序で対応する。本土から小笠原諸島へは飛行艇でも3時間かかるため、病人が本土の病院に到着するのは、早くても要請から6時間を要する。島民の生活や観光客の利便性を向上するために、小笠原諸島に空港を建設する計画もあるが、今のところ建設の予定はない。当分の間、小笠原諸島へは船で行くことになる。 4. 乗船記 2013年3月。知人から誘いを受け小笠原諸島へ旅行することになった。3月23日から29日までの6泊7日、うち船内2泊という行程である。23日早朝に千葉の家を出発し、東京港竹芝桟橋へ向かう。おがさわら丸は2等船室の場合、受付を済ませた順番で上のデッキ(階)から順に案内されるので、早めに受付を済ませる。ちなみに、船は下部後方に機関室があるので、下のデッキほどエンジンの振動や音が大きくなる。受付を済ませて桟橋で待っていると、これから乗船する「おがさわら丸」が入港してきた。6,700トンの船体は、東京港にあってはそれほど大きくは見えない。 写真1 竹芝桟橋に着岸するおがさわら丸 午前9時30分、乗船開始。自分の席に荷物を置き、船内を歩いてまわる。最上階Aデッキまで見終わると、そろそろ出港の時間だ。桟橋には見送りや港の作業員など大勢の人が集まる。午前10時、出港。長い汽笛を鳴らし、竹芝桟橋を離れる。25時間半の船旅が始まった。出港から約2時間は東京湾内を航行するため、大きな揺れは無く快適な航海だった。羽田空港、東京ゲートブリッジ、東京湾アクアライン、横浜みなとみらいなどを眺めながら進む。正午、レストランで昼食をとる。「おが丸カレー」と呼ばれるビーフカレーを注文。食事をしていると、急に船が大きく揺れだした。東京湾を抜けて太平洋へ出たのだ。食事が終わり席に戻る。手すりにつかまらなければ真っ直ぐ歩けないほどの揺れで、船内を移動するだけで一苦労である。マットを敷いて横になり、夕方まで一眠り。相変わらず船は大きく揺れている。午後5時、Aデッキ西側の外デッキへ出る。天気が良ければ日の入りを見ることができるのだが、この日は生憎の天候で夕日を見ることは出来なかった。カップラーメンコーナーで夕食をとり、席に戻って就寝。時間はまだ午後7時。することがないから寝る。 翌朝4時に起床。Aデッキ東側の外デッキで日の出を待つ。しかし、またしても天候に恵まれず見ることができなかった。席に戻ってもう一眠り。 午前10時頃、船内放送で目が覚める。小笠原諸島の北端を航行中とのことで、デッキへ出てみる。遠くに小笠原諸島の島々が見える。もうすぐ到着である。下船の準備をすませ、デッキから島を眺める。到着30分前、目的地である父島が見えてきた。二見湾に入ると波はほとんどなくなり、船の揺れも小さくなる。速度を下げ、ゆっくりと二見港桟橋に着岸した。港は、出迎える多くの人で賑わっていた。人も食料も手紙も、すべてはこの船で運ばれる。島民は皆、おがさわら丸が待ち遠しいのである。 写真2 父島二見港桟橋 5. 終わりに 周りを海に囲まれた日本は、海運の盛んな国である。各地を結ぶ客船やカーフェリーが多く運行されており、旅客のニーズに合わせて様々な設備や料金プランが用意されている。長旅で退屈をしないように、船内では様々なイベントが行われており、レストランでの食事や海の景色など、船旅でしかできない体験が多くある。飛行機や鉄道、バスなど旅行先への移動手段は様々であるが、そのなかに「船」という選択肢を入れてみてはいかがだろうか。きっと、今までと違った旅の楽しみ方が見つかると思う。 |
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