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〜 東京メトロ・ワースト乗降人員駅を巡る 〜

社会交通工学科2年 2008番 安斎 孝宣

1. 初めに

 東京メトロ(正式名称:東京地下鉄株式会社)。日本一の乗降人員数を誇る、日本一の地下鉄と言っても過言ではない。池袋・新宿・渋谷・東京・上野という都心の交通の要所にももちろん通じており、これらの駅は沢山の人々が日々乗降している。昨年度の乗降人員第1位は池袋駅で、約48万人もの人々が乗降したそうだ。
 一方で、そんな東京メトロにも乗降客の少ない駅がある。今回の記事はそんな駅にスポットライトを当て、それらの駅の周りを巡ろう、というのが趣旨である。私がこの後出てくる乗降の少ない駅に住んでいるというのが今回の記事を書こうと思った理由であるが、別にこの様な事実が悪いというわけではない。どんな駅にも特徴がある。それを皆さんに知ってもらうような、そんな感じで書き進めて行こうと思う。


2. 5、4位の紹介

 まずは、5位と4位の紹介であるが、今回は取材対象に入れなかったので軽く紹介する形となる。
  • 第5位 銀座線  稲荷町駅  14,328人     
  • 第4位 副都心線 雑司ヶ谷駅 13,638人
 5位は上野と浅草の間にある、稲荷町駅。その2駅に比べると閑静な駅であるが、近くには銀座線の列車検査を受け持つ上野検車区や台東区役所などがあり、多くの人々を支えている。
 4位は乗降人員1位を誇る池袋駅のお隣駅である雑司ヶ谷駅。よく、ターミナル駅の隣駅が乗降の少ない駅だということがあるが、ここもその一つである。ちなみに、この駅は都電荒川線の鬼子母神前停留所の真下にあり、乗換駅になる。そして、この駅が東京メトロの乗換駅の中で一番乗降客の少ない駅にあたる。だが、目白界隈の大学(学習院・東京音大など)が近くにあり、雑司ヶ谷霊園・鬼子母神堂などのスポットもあって、まだまだ開業からも日が浅いことからも、さらなる乗降客の増加が望めるであろう。


3. 第3位

 第3位は、有楽町線の桜田門駅である。乗降客数は13,517人。私自身、この駅がここにランクインするということに驚いた。読まれている方の中でもそういう方がいるかもしれない。
 立地としては、半蔵門・南北の2路線の乗換駅の永田町駅、JR山手線・京浜東北線との乗換駅の有楽町駅に挟まれた駅である。
 駅からの出口は5つある。1番出口からは三宅坂・憲政記念館、2番出口からは国会議事堂(衆議院正門)・中央合同庁舎3号館(国土交通省・海上保安庁)、3番出口は桜田門の目の前にあり、桜田門から皇居外苑などに行くことができる。4番出口は警視庁の目の前。そして5番出口は中央合同庁舎6号館(法務省・公正取引委員会)・赤レンガが印象的な法務省旧本館(重要文化財)。このように書き出してみても重要な駅であるということがよくわかるであろう。
 では、何故この駅の乗降人員が少ないのであろう。私なりに推測すると、まず挙げられるのが、通勤客以外に極端に利用が少ないと思われるからである。周りはほとんどが働く人のための施設であり、そうでないのは、法務省旧本館と桜田門くらいである。必然的に昼間や休日は閑散としてしまうのも致し方ないところであろう。筆者も休日に訪れたが、やはり閑散としていた。2点目は、駅の北側が皇居の敷地内のため、その分の土地が無い分、といったところか。そして3点目は、近くに多くの駅があることであろう。隣駅の永田町、有楽町の両駅からは1キロ程度で歩くことができ、例えば、JRを使って官庁街に出勤する場合には有楽町駅から歩いて向かうことが容易に考えられる。また、霞ケ関駅、日比谷駅からも程近く、特に霞ケ関駅は官庁街のほとんどをカバーしていて、桜田門駅の乗降増加を妨げるような形になっている。
 



写真1(左) 目の前は桜田門、3番出口
写真2(中) 警視庁横にある4番出口
写真3(右) 赤レンガが目立つ5番出口




写真4 桜田門駅ホーム


4. 第2位

 第2位は、南北線の志茂駅である。乗降客数は10,130人。この駅は筆者が普段通学に使っている最寄り駅である。
 駅前らしきものが2つの出口のどちらにも見られない。これは筆者の中ではメトロの駅でも特に駅前が発展していない駅であろうと思う。駅前にはファミリーレストラン1つとコンビニ3つ、そして弁当屋がある程度。周りに名所・名跡らしきものもなし。南北線の開業までは鉄道空白地域であり、JR赤羽駅からも離れていたため、家、特にマンションの類はそれほど多くない。
 だが、そばを隅田川や荒川が流れ、水利に恵まれていることを利用して、日本化薬や大日本印刷などの比較的大きな敷地の工場が目立つ。そのためか、後述する第1位の駅と比べると通勤しに来る客が多い。隣の王子神谷駅が同じ非乗換駅でいて、それなりの乗降人員を誇っていることを見ると、志茂駅周辺に住んでいる人が少ないのが原因といえる。確かに、駅周辺には一軒家と比較的高さの低いマンション・アパートが立ち並ぶ。



写真5(左) 志茂駅前、奥に2番出口
写真6(右) 三角屋根が特徴的な1番出口。筆者のお気に入り




写真7 志茂駅ホーム


5. 番外編・その他の路線のワースト乗降人員駅

 1位に行く前に、ここでは同じ東京の地下鉄である都営地下鉄と東京23区内のJR線、そして東京23区内でのワースト乗降人員駅についてオマケ程度に書かせていただいた。
 まず、都営地下鉄のワースト駅は三田線の新高島平駅である。乗降客数は9,186人。三田線の終点の西高島平駅の隣駅である。付近はこの駅から2つ先の西台駅まで続く団地群が立ち並ぶ。ただ、近年この付近の人口が落ち込んでいるのと共に、この駅の乗降人員も徐々に数を減らしている感じである。
 次に、23区内のJR線のワースト駅は京葉線の越中島駅。JRは乗車人員でしかデータが出ていないためあくまで参考であるが、乗車人員は4,230人(単純に倍にすると8,460人)。筆者も取材以外で訪れたことがある駅だが、昼間にはわずかに降りていく乗客と、ものの1,2秒で切られてしまう発車メロディー、というのが延々続くような駅だった。ここは主に駅の真上にある東京海洋大学のキャンパスに向かう学生が利用する。
 そして、23区内のワースト駅はゆりかもめの市場前駅である。乗降人員はなんと15人。実は2番目に少ない隣駅の新豊洲駅の1/20の人数であり、断トツの最下位である。先ほどの志茂は駅前にほとんど何もないと書いたが、この駅は付近を含めて何もない。本当に今は何もない。それも既に開業して8年も経過したというのに、である。この駅は将来的には駅名通りに「市場前駅」となるために、築地市場をこの付近に移転する予定である。隣の新豊洲駅と共に、数年後には人で賑わう駅になっていることを期待している。


6. 第1位

 そして第1位の発表。第1位は、南北線の西ヶ原駅である。乗降客数は6,469人。第2位の志茂駅と比べると約3,500人の差、第3位の桜田門駅の約半分である。
 筆者は普段志茂駅まで乗っていて、西ヶ原駅はその途中の駅なのであるが、西ヶ原駅で降りていく人は帰宅ラッシュの中でも一部のドア(階段・エスカレーター付近)を除いてほぼいない。ましてや昼間に乗っていると1列車につき数人程度しか降りないこともある。これを考察すると、志茂駅同様、駅付近の人口が少ないことが挙げられる。ただ違いがあるとすれば、他路線との客の奪い合いがあることである。志茂駅が鉄道空白地域であったのに対して、西ヶ原駅からは東側に歩いて10分ほどのところにJR上中里駅がある。ここは京浜東北線の駅で上野・秋葉原・東京・品川・横浜など、乗降客の多い駅へ乗り換えなしで行けることから客をかなり奪われていることは想像に難くないだろう。また、南に15分ほど歩くと、駒込駅がある。ここは南北線で言えば隣駅にあたるのだがそれほど遠くないことから、主に池袋に向かう客を奪われているだろう(なお、新宿・渋谷などは南北線からメトロ線を乗りついで向かってもそれほど時間が変わらないため客が奪われていない、と考える)。このようなことから西ヶ原駅から南北線に乗って向かう人の行き先はかなり限定的、ということになってしまっているのが現状だろう。
 さて、そんな駅を降りて地上に出てみると、まず2つの出口の両方からも目立つ、紙幣・切手などの印刷を主に行っている国立印刷局の滝野川工場がある。隣の王子駅が最寄りの王子工場など、全国7工場で日夜印刷を行っている。さらに、旧古河庭園という場所もある。ここは国有財産で、国の名勝(芸術上または観賞上価値が高い土地について、日本国および地方公共団体が指定を行ったもの)に指定されている。現在は東京都に貸し出されて都立公園の扱いとなっている。特に、バラの名所であるので春や秋に是非行くことをお勧めしたい。春に行ってほしいといえば、もう一つお勧めしたいのが、飛鳥山公園である。古くは江戸時代から桜の名所として名高い場所で、日本最初の公園の一つである。ちなみに山とはいっても、地形図に山として記載されていないので山として扱われているかは定かではない。通常、隣の王子駅から行く、または都電の飛鳥山停留所から行くのが普通であるが、この西ケ原駅からもさほど遠くない。特に公園の南側は王子駅から行くのとほぼ同じくらいの距離である。ここらへんには飛鳥山3つの博物館(紙の博物館・北区飛鳥山博物館・渋沢史料館)があったり、子供たちが遊ぶ遊具帯の一角にD51(853号機・1943年製)や都電6000形(6080号・1949年製)が静態保存されている。



写真8(左) 印刷局脇にある1番出口
写真9(右) ここが第1位の駅の改札!




写真10 飛鳥山公園の都電、横にはD51も


7. 最後に

 今回は上位3駅を巡ることとなったが、普段筆者が利用している志茂駅はともかくとして、筆者としても新たな駅の楽しみ方を感じることができた。これを読んでいただいて、これらの駅に、少しでも興味を持っていただいたら幸いである。


参考文献
  • 東京メトロ:「各駅の乗降人員ランキング(2012年度)」、http://www.tokyometro.jp/corporate/enterprise/passenger_rail/transportation/passengers/index.html、2013年8月参照     
  • 東京都:「東京都統計年鑑(平成22年)」、http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tnenkan/2010/tn10q3i004.htm、2013年8月参照     
  • JR東日本:「各駅の乗車人員(2012年度)」、http://www.jreast.co.jp/passenger/2012_03.html、2013年8月参照



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