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〜 東武の最大勢力「10000系」 〜

社会交通工学科 1年 1107番 浜田 卓

1.総説

 東武鉄道10000系は、東武の主力として20年間にわたって製造された8000系の後継車として、1983(昭和58)年11月に登場した。車体は20m4扉で、東上線用9000系に続くオールステンレス製である。1983(昭和58)年から1989(平成元)年にかけて118両が製造された10000形と、1988(昭和63)年から1996(平成8)年にかけて364両が製造された10030形、1988(昭和63)年に4両が製造された10080形から成る、総勢486両の東武最大グループである(2011年8月現在)。
 10000系には2・4・6・8・10両固定編成が存在し、伊勢崎・日光線では、6両固定編成の単独運用のほか、2・4・6両固定編成を組み合わせ、6・8・10両で使用される。東上本線では、10両固定編成の単独運用のほか、6両+4両、8両+2両の組み合わせで、10両編成として使用される。ただし、10000型には4両固定編成、10030形には8両固定編成がなく、10080形は4両固定編成のみである。伊勢崎・日光線では30000系とも併結して使用される。




図1 10000系編成配置図




図2 10000系運用範囲



10000型




写真1 10000形(3次車)[新越谷にて]



 10000形は、オールステンレス車体、界磁チョッパ制御を採用して登場した、8000系の後継車である。車体側面はコルゲート仕上げで、窓下にロイヤルマルーンの帯を締める。側窓はサッシュレス一段下降式とした。前面は中央部に貫通路を配した三つ折り平面構造で、周囲はボディ同色のFRP製キセが額縁のように覆っている。

 1次車から6次車まで製造され、4次車からは、側面の車番表示がプレートをねじ止めする方式から帯色のペイント式となり、前面にも車番のペイント書きが入れられた。5次車では客室の座席モケットが金茶色から着席区分模様入りのグリーン系に変更された。これらの変化はのちに全車に適用されている。6次車は8両固定編成を10両化する際に製造された中間車で、すでに10030形が製造されていたため、床が従来のグリーン系からブラウン系になるなど10030形に準拠した車内となった。6次車の製造により11803〜11806編成が10両化され、10両固定編成の登場となった。

 主電動機は出力140kWの直流複巻電動機である。制御装置は、8000系で採用した超多段式バーニヤ方式の電動カム軸接触器にGTOサイリスタを用いた界磁チョッパ制御(力行:直列24段・並列21段・弱め界磁他励界磁チョッパ制御)を組み合わせ、スムーズな加減速とともに省エネルギー効果を図った。ブレーキ装置は全電気指令式電磁直通空気ブレーキで、日光線の連続急勾配に対応するため、全車抑速ブレーキを備えている。補助電源装置は、編成中の1基が故障しても他のMGから電力供給できるようになっている。台車は空気ばねのSUミンデン式を採用している。



10030型




写真2 10030形(10050代1次車)[鬼怒川公園にて]



 10030形は、20000系に続いて軽量ステンレス車体を採用した、10000形のマイナーチェンジ車である。ロイヤルマルーンの帯は側引戸にも回されている。車体側面はコルゲート仕上げからビードプレス仕上げに変更されていて、凹凸が小さくなっている。同様の変化は、ほぼ同時期に製造されていた京王7000系電車にも見られる。前面は全体をFRP一体成型とし、ライトの位置・形状も変更されている。車内は側引戸を化粧板仕上げとし、床はブラウン系、座席モケットはグリーン系に変更された。1人あたりの座席幅を拡大したため、定員が10000形と異なる。妻面の貫通引戸は全か所に設置されている。

 1992(平成4)年3月までに1次車から8次車が製造された。7次車からは吊手の形状が丸型から三角型に変更され、枕木方向に増設されている。
 1992(平成4)年6月の落成車から、車椅子スペース、スイープファンの設置、通風装置と冷房装置の一体化などの設計変更を受け、末尾51番から始まる10050代が登場した。10030系としては初めて2両固定編成が製造された。なお、10050代には10両固定編成は存在しない。1次車から6次車まで製造され、2次車では自動解結装置の準備工事が施され、続く3次車から同装置が本設されるとともに、連結器がそれまでの密着自動連結器から密着連結器に変更された。

 主電動機・制御装置・ブレーキ装置など、走行に関する機器は10000形とほぼ同様である。台車については軽量化が図られ、20000系に続いてボルスタレス台車を採用した。



10080型




写真3 10080形[南栗橋車両管理区(現南栗橋車両管区)にて]



 10080形は、東武初のVVVFインバータ制御の試作車である。4両固定の11480編成のみ製造された。試作の意味合いから、車体番号の末尾が「0」となっている。10080形の試験結果がスペーシア用100系車両に反映されている。車体は10030形前期車と同様である。
 主電動機は出力170kWの三相かご型誘導電動機、制御装置はGTOサイリスタ素子を用いたVVVFインバータ制御であった。台車はSUミンデン式のボルスタレス台車である。
 10080形は他の10000系や30000系と連結して使用されることが多かったが、加減速時の協調性が悪く、特に30000系との連結時には乗務員らから「40000系」と皮肉られていたそうである。そんな中、2005(平成17)年後半から制御装置の不具合により休車となってしまった。その後、2007(平成19)年には制御装置の吊替、主電動機の交換などが行なわれ、以前のように営業運転に復帰した。改造後は50000系と同様の主電動機、制御装置となり(出力165kWの三相かご型誘導電動機、IGBT素子VVVFインバータ制御)、50000系と同じ走行音がする。



2.自動解結装置の設置と連結器の交換

 伊勢崎・日光線では1986(昭和61)年から、朝ラッシュ時の曳舟行き(その後業平橋行きに)で10両運転が開始され、南栗橋駅での増結が行なわれるようになった。10000系の増備が進んだ1994(平成6)年のダイヤ改正では、浅草行きも10両運転を開始することになったが、浅草駅のホーム有効長の関係から、曳舟駅で解結作業をすることとなった。しかし、朝の過密ダイヤでは、線路に降りてのシャンパ栓の着脱などは時間がかかり、ダイヤ上のネックになってしまう。
 また、当時ローカル線区の利用者数が減少の一途をたどり、直営のバス事業も毎年のように赤字を計上していた東武鉄道にとって、特定の時間だけに作業員を充てることは、コストの面からもできるだけ避けたいことであったと思われる。そこで、ダイヤ改正を翌年に控えた1993(平成5)年から順次、10000系の自動解結装置の設置・連結器の電気連結器付き密着連結器への変更が行なわれた。これらの工事は、将来の車両の転属なども考慮して、東上線用車両にも施された(8・10両固定編成を除く)。現在では、北千住駅で浅草行き後ろ4両の解結作業を行ない、留置線で4両を2本繋げて車庫へ回送するという運行形態がとられている。



3.特異な車両

11605編成



写真4 前面幕周りが黒かった16605号車(リニューアルにより消滅)[北越谷にて]



11267編成



写真5 シングルアームパンタグラフ試験車の11267編成[小菅にて]



 その他、前面窓周りの黒色部分が通常より広かった11461編成(検査時に修正したため消滅)があるが、あいにく写真を持ち合わせていないため省略する。



4.今後の展望

リニューアル工事

 昔から東武鉄道の車両は、車体更新や修繕工事をして長い間使用されることが多い。10000系でもご多分に漏れず、修繕工事が行なわれている。ただし、9000系からはリニューアル工事という名の下に施工されていて、10000系でもリニューアル工事と呼んでいる。なお、以下の記述は2011(平成23)年8月現在の状況を記している。




写真6 10000形(リニューアル車)[栃木にて]



 10000形の工事は2007(平成19)年に開始され、すべての6両固定編成がリニューアル済みである。外観上の変化としては、スカートの設置、前照灯・尾灯の交換、パンタグラフの削減(モハ15000)とシングルアーム化、行先表示器のLED化、車外スピーカーの設置などが挙げられる。走行機器の変更はしていない。2・8・10両固定編成はいまのところ未施工である。




写真7 10030形(リニューアル車)[業平橋にて]



 10030形の工事は2010(平成22)年に始まったばかりで、伊勢崎・日光線の6両固定2編成が運行中である。外観上の変化は10000形とほぼ同じだが、パンタグラフの交換は省略されている。走行機器の変更も行なっていない。現在は東上本線の4・6両固定各1編成が工事中とみられる。




写真8 リニューアル前後の車内の様子(上段:10000形/下段:10030形)



 内装は新型車両50000系に準じている。主な変更点は、床材・化粧板・側引戸・カーテン・座席モケットの交換、袖仕切り・スイープファン・車内案内表示器の設置である。
 10000形では吊手の交換や妻面貫通引戸の全か所への設置も行なわれたが、10030形では省略されてしまった。
 特に、10030形は元々全か所に貫通引戸があったにもかかわらず、各車両片側のみ交換し、残りは撤去してしまうなど、グレードダウンしている箇所も見受けられる。なお、一部の10000形に設置されたドア開閉表示灯はなぜか作動しないが、10030形に設置された物は無事点灯しているようである。


ATC対応工事

 東上本線の池袋〜小川町間では、現行のATSに代え、独自の東武型ATCを導入する予定であり、2012年度使用開始を目指して工事が行なわれている。東上線の10000系にはATC装置の設置や運転台の改良などが行なわれ、着々と準備が進んでいる。



5.参考資料

  • 柴田浩一郎, 今城光英. 東武鉄道の鉄道事業を語る. 鉄道ピクトリアル. 2008, vol. 58, no. 1, p. 18-23.
  • 稲葉克彦. 東武鉄道 現有車両プロフィール2008. 鉄道ピクトリアル. 2008, vol. 58, no. 1, p. 221-265.
  • 加藤佳一. “朝日自動車グループのあゆみ”. BJハンドブックシリーズ R54 朝日自動車. BJエディターズ, 2005, p. 18-31.
  • “車両紹介”. 東武鉄道. http://www.tobu.co.jp/rail/frail_2_3.html, (参照2011-8).
  • “車両図鑑〜通勤型車両 Vol.2”. Tomo TOBU 東武鉄道 私設ファンサイト. http://www3.plala.or.jp/tomo-tobu/zukan/tukin_02.html, (参照2011-8).
  • “準急王国終幕”. TAKASUZUKI 部屋. http://homepage2.nifty.com/takasuzuki/s_exp.htm, (参照 2011-8).
  • ニュースリリース “2008年度の鉄道事業計画 設備投資計画は総額337億円”. 東武鉄道. http://www.tobu.co.jp/file/1621/080514-4.pdf, (参照2011-8)




 
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