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〜 箱根登山鉄道 モハ1型電車について 〜

土木工学科1年 0166番 竹田 知樹


絵−1 急カーブを曲がる登山電車




T. 箱根登山鉄道の概要

 80パーミル(1キロ進むにつれて80メートル登る)という日本で1番の急こう配を登り下りするため、 走行機器は特殊な物を用いている。まず、モーターは通常の電車よりも大出力のモーターを使用し、ブレーキは 通常の空気ブレーキ・発電ブレーキ・手動ブレーキの他に、非常用にレール圧着ブレーキを装備している。 また、急カーブを曲がる個所がいくつもあるため、車輪の摩耗を防ぐためにレールと車輪との間に、常時、 水を撒きながら走っている。このため、車両の床下に水タンクを設置している。
 このような特殊な路線条件から、新型車の製造にコストがかかるため、近年まで旧型車が多く走る路線でも あった。しかし、平成に入ってからは新造車を多く投入するようになり、旧型車は廃車されるか、徹底的に 更新されるかという二つの道を進むようになった。現在、大がかりな更新工事を受けずに残っているのはこの モハ1型のみとなっており、今後の動向が注目される。


絵−2 運転台の様子





U. モハ1型の概要

 昭和25年、小田急が箱根登山鉄道線に乗り入れ(小田原〜箱根湯本間)を開始した。小田急の車輌は1500V、 箱根登山鉄道の車輌は600Vで動いていたため、直通運転を開始するにあたって、小田原〜箱根湯本間の架線 電圧を600Vから1500Vに引き上げた。このため、箱根登山鉄道の従来の車輌はこの区間を走れなくなって しまった。これに対応するため、開業当初の木造電車チキ1型を更新改造し、2つの架線電圧に対応できる車輌を製造した。これがこの記事で取り上げるモハ1型である。



写真−1 モハ1型103号の製造銘板(車内)





V. 更新改造について

 更新前の車体は荷物室をもった3扉の車体で、窓は一段下降、屋根は明かり取り窓付きのダブルルーフ、 全面は国鉄モハ30型のような上部が曲線を描いた形状の非貫通三枚窓であった。 電装部品はゼネラル・エレクトリック社製(しかし、更新前の昭和10年頃に東芝製のものに交換されていた ようである)で、台車はブリル27MCBであった。

1)ゼネラル・エレクトリック社(GE)とは、エジソンが創業したアメリカの会社で、電気機器を製造している 会社である(現在も盛業中)。日本では、黎明期の電車にこの会社のモーター・制御機が多く使われた。しかし 開業時、モハ1型以外の車両はスイスのBBC社の物を使用しており、この車両だけGE製となったのは第一次世界 大戦でヨーロッパからの輸入品が入手困難となり、仕方なくアメリカ製の物を使用したという経緯があるようで ある。

2)ブリル27MCBとは、アメリカのブリル社が作った電車用台車である。日本では、黎明期の電車で多く使われて おり、一度も使われたことのない会社を探すほうが難しいほどである。近年まで福井鉄道・高松琴平電鉄など にて現役で使用されていたが、現在は全車引退している。なお、東武博物館に展示されているデハ5型電車は この台車を使っており、間近で見ることができる。

3)ブリル社とは、アメリカの車両メーカーで、日本には台車を納入していた(日本初の市電である京都市電の 台車から阪急の韋駄天P6の台車まで実にさまざまな台車を製造した)。日本の鉄道の発展に大きく関わった 会社であったが、1944年にアメリカ国内の鉄道衰退のあおりをうけて廃業した。


 更新前のチキ1型のうち、5番は大正15年に速度超過による脱線・転落事故により大破したため、105番は欠番 となっている。
 更新後の車体は、ウィンドシル・ヘッダー(窓の上下に取り付けられた補強板)付き・溶接構造(リベットが ない)の半鋼製(車体の屋根などに木材を使用)で、昭和25年当時の標準的な車体構造である。妻面は微かに 弧を描いた半流線形で、むき出しになった配管類とともにこの車両のアクセントになっている。



写真−2 運転台付近の様子





W. この車輌の注目ポイント

@コントローラーが手動進段式(自動車でいうMT)なので、先頭車に乗っていると運転士が小刻みに コントローラーを動かしている様子が見られる。

A坂を下るときは常時電気制動(自動車でいうエンジンブレーキ)を使用しているので、車内に吊り掛け モーターの音が響きわたる。また、吊り掛け駆動の電車で電気制動を常時使用しているのはこのモハ1型と 遠州鉄道30系のみである。(路面電車を除く)

B車内は木を多用しており、レトロな雰囲気を味わうことができる。また、何回もペンキで塗られているため 塗膜が厚くなっており、この車輌の使われてきた年月を感じることができる。



写真−3 車内の様子



C窓が上下段共に上昇式・上段と下段の大きさの比率が1対2である。このタイプの窓は、昭和10〜30年代の 旧型電車に良く見られた形式であるが、定期運用についている電車の中では、このモハ1型が日本で唯一と なってしまった。(路面電車を除く)
 また、この車輌は冷房が付いていないため、夏場は窓を全開にすることができる。



写真−4 二段窓の様子





Dつり革や網棚の支えが意匠の凝ったものとなっている。古き良き時代の意匠を垣間見ることができる貴重な ものである。



写真−5 つり輪支えと荷物棚支えの様子





X. 製造後の更新工事の履歴

@昭和35年頃、台車がブリル27MCB台車から昭和後期に日本車輌製NA-7に交換された。(この際、元の主電動機は 再利用された)

A昭和30年代 窓枠が木枠からアルミサッシに交換された。

B昭和50年、運転台の中央に速度メーター・圧力計が一体となったパネルが設置された。また、この際に 保安装置が更新された。

C平成5年、片運転台に改造され、貫通路が設置された。


写真−6 貫通路付近の様子



D平成14年、台車がNA-7から東急車両製TS-110に交換された。(もともと他の電車が使用していたもの。 駆動方式は吊り掛け式)


写真−7 TS-110台車



E平成22年、扉が鋼製→ステンレス無塗装と交換された。

F平成19年、104-106編成の台車がTS-110からTS-330に交換された。この際、同時に駆動方式が平行カルダンと なった。

G平成22年、座席のモケットが箱根寄せ木細工の模様の物に交換された。




Y. 予想される今後の情勢

@104-106編成が2007年に台車交換を受け、吊り掛け式の電車が103-107となったことから近い将来、台車交換を 受ける可能性がある。

Aモハ2型全車が室内に徹底した更新工事が施されたのに対し、このモハ1型は特に大がかりな更新工事は 施されていない。また、車体が今年で60年になるので、老朽化による廃車という可能性もあり得る。 (101-102編成は老朽化により2002年に廃車された)いずれにせよ今後何らかの変化が起きる可能性がある。



写真−8 強羅に向けて発車したモハ1型





Z. 参考文献

「箱根登山鉄道公式ホームページ」
 http://www.hakone-tozan.co.jp/whats/train01.html

「箱根登山電車のホームページ」
 http://earth-37.or.tv/tozan/

「モデルショップさがみ ガラクタ雑談室 箱根登山電車モハ1形の話」
 http://sagami-m.cocolog-nifty.com/garakuta/2006/12/1_a4f8.html

  「むーさんの鉄道風景 箱根登山鉄道1954年」
 http://11.pro.tok2.com/~mu3rail/link14.html

「鉄道写真管理局 珍車ギャラリー 箱根登山鉄道モハ2型 110」
 http://www.hcn.zaq.ne.jp/cadzy500/HP1/chinsya-htm/hakone_tozan110.htm

Rail Magazine 1996年8月 155号 「今なお現役‘96 吊り掛けのクライマー」
Rail Magazine 1989年6月 67号 「1M 単行電車の魅力 ローカル私鉄の1M・両運電車」



 
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