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〜 「あずさ」 〜

社会交通工学科1年 2034番 尾坂 洋介

1.あずさとは

 現在、首都圏と信州を結ぶルートは東京から大宮、高崎を経由し軽井沢から長野県に入る 長野新幹線ルートと新宿から八王子、甲府を経由し長野県に入る中央本線ルートの二つがある。
 特急あずさは後者の中央本線を走行する特急列車である。 この列車は1962年、新宿と松本を結ぶ特急列車として運転を開始した。1968年には大糸線白馬駅 まで乗り入れを開始した。そして1994年からは運転速度を向上させたスーパーあずさ号が登場。 東京と信州を結ぶ特急列車として活躍している「あずさ」についてまとめてみた。



図1 梓川と北アルプスをイメージしたあずさ号のヘッドマーク



2. あずさの走る中央東線

 東京と名古屋を結ぶ中央本線は東京から塩尻までの「中央東線」と塩尻から名古屋までの 「中央西線」の2つに分けられる。  中央東線はJR東日本の管轄、中央西線はJR東海の管轄となっており、 直通する列車はなく運行体系は別となっている。
 この中央東線は長野、山梨の山岳地域を通過する路線である。そのため、カーブなどにより 列車の速度が上げにくい路線でもある。だが、数多くの線形改良や新型車両の投入により、 所要時間の短縮を達成してきた。特に大きな線形改良としては岡谷〜辰野〜塩尻の区間に おいて岡谷〜みどり湖間の塩嶺トンネルの開業により辰野駅を特急列車や急行列車が経由 しなくなったもの、新型車両の投入として曲線通過速度を向上させた車両などである。

 そして、中央東線は中央自動車道、上信越道の高速バスと併走しており乗客輸送のライバル となっている。



写真1 中央本線



3. あずさの車両

 あずさは時代ごとに使用車両を変えながら中央東線で活躍してきた。これまでに使用されて きた車両を紹介し、現在でも乗車可能な形式については乗車してみての感想も述べたいと思う。

3−1. 181系

 初代あずさの181系は1958年に登場した冷房、食堂、ラジオ受信などの画期的な設備を持ち、 東海道本線の「特急こだま号」として活躍した151系に動力出力アップや耐寒耐雪構造を施した 車両である。1966年にあずさ号としての運転を開始した。 また、同形式は上野と新潟を結んだ「特急とき」や上野と長野を結んだ「特急あさま」にも使用 されていた。
 しかし、1973年末から翌2月にかけて上越地方は大雪に見舞われ181系「特急とき」では車両故障 が頻発して社会問題化した。それを受け、後にあずさにも使用されることになる、後継の183系 1000番台が開発され、181系は中央本線で1975年までの9年間活躍した。



写真2 松本駅を発車する181系あずさ号一番列車



3-2. 183系・189系

 1973年10月より181系置き換えを目的にあずさ号としての運転を開始。183系は0番台が1972年 7月に房総東線(現在の外房線)の電化開業および総武線複々線化と地下線開業にあわせて製作 された。上記開業に伴い、従来の気動車や電車による急行列車を格上げ・特急化し、かつ東京駅 から房総方面へ直通させることにしたためである。
 追って1973年に耐寒耐雪の装備がされた183系1000番台が登場、上野〜新潟の上越線「特急とき」 で運転を開始した。 また信越・中央東線「あさま」「あずさ」系統に向け183系1000番台をベースとした189系を開発した。 特急あずさは183系0番台、183系1000番台、189系と様々な種類で運転された。
 1987年には内装、車体塗装をリニューアルした「グレードアップあずさ」が運転を開始した。
さらに、1997年に信越本線 軽井沢〜横川が廃止となり同区間の廃止により運転を終了した 「特急あさま」に使用されていた189系があずさに使用されるようになり183系1000番台と混結 するようになった。
 塗装は伝統的なクリーム4号と赤2号の国鉄色や、いささか派手であったがグレードアップ時に あずさ用編成に塗装された白地と腰部にベージュ、窓位置にグリーンとレッドの細帯をまいた塗装、 1992年にそのグレードアップあずさ編成にニューカラーとして塗装されたフォギーグレイ(灰色9号) を基調にアルパインブルーとファンタジーバイオレットのラインが入った通称”あずさ色”、 あさま用編成にアイボリーホワイトをベースに、窓回りを渋いモスグリーンとグレーで飾った 通称”あさま”色など様々な車体色がある。
 現在も183系・189系は多客期の臨時あずさに使用される。

◇感想
 この形式には臨時の特急あずさで乗車した。現在、運転をしている183系・189系は座席、内装 などがリニューアルされている。客室においては経年による劣化はさほど見受けられないが 、和式トイレ、旧式の洗面台など一部設備においては時代遅れの感が否めない。また、走行時の 振動が比較的大きい。





写真3 183・189系あさま色の車両があずさとして走る臨時列車



3-3. E257系

 2001年12月に183系・189系の置き換えを目的に運転開始。9両の基本編成と2両の増結編成があり 基本編成と増結編成を連結した11両編成と基本編成のみの9両編成での運転で活躍している。
 これまでに投入した E653系(フレッシュひたち)、E751系(スーパーはつかり)の基本構造に加え、 通勤電車として活躍しているE231系に採用した新しい技術も導入している。
 車両の特徴は、中央線沿線の美しい自然を満喫できるような大きな窓、車内の温度環境を快適にする ため荷棚の先端付近から、冷・温風が吹き出す新しい空調システムが導入されている。
 E257系は白を基調に車体中央にピンク…桃の花(春)、グリーン…森の木々の葉(夏)、イエロー… 山の紅葉(秋)、パープルブルー…雪に染まる木々(冬)、シルバー…アルプスの銀嶺(安曇野の象徴) をイメージしたカラフルな甲斐菱が描かれている。また各号車ドア横の号車案内サインでは沿線の 名物であるブドウや富士山、松本城などのイラストが描かれている。

◇感想
 景色が良く眺められるように窓が大きく開放感のある車両で、車内も明るく快適な旅が楽しめる。 その一方やや落ち着けない感じもある。前述の183系・189系、後述のE351系に比べると 揺れは少なく乗り心地は良い。



写真4 E257系あずさ



3-4. E351系  (1994年12月からスーパーあずさ号として運転)

 1993年12月、中央自動車道の高速バスへの対抗と183系の取替えを契機に代替車両として新しい技術 を導入し最高運転速度と曲線通過速度の向上を目指した、E351系があずさ号として運転を開始した。
 この車両は曲線通過速度向上に効果のある「制御つき振り子装置」を採用しているのが特徴である。
振り子の制御指令は車両側の曲線データをATS地上子の位置と照合して位置補正を行いながら傾斜指令 を出す制御を行い、自然振り子の欠点である動作遅れを解消するものである。
なお、振り子式は以下の2タイプに分けられる
・自然振り子装置  …遠心力をコロなどを通して傾斜させる 381系で使用
・制御付き振り子装置…制御シリンダー等で振り子を制御   E351系で使用

 車両外観において先頭部分は美しさの中に気品ある力強さを漂わせる形状としてあり、 屋根に向かっての絞り込みの大きい車体の断面と高運転台の部分を、流れるようなラインで 一体感のある造形でまとめてある。
 塗装は基本色に「自然・地球」を表すアースベージュ、補助色として「気品・優雅」を表す グレースパープルの太い帯を車体腰部に通し、アクセントとして「未来・新鮮」をイメージした フューチャーバイオレットの細いラインを太帯の上部に配している。内装色の表現としては、 山・高原・森林・土などの「自然」のイメージをベースに、メタリック調のキラリと光る素材を 用いることで「ハイテク」のイメージを表現している。

◇感想
 前述の通り振り子式を採用しているため、カーブでは大きく車両を傾け通過する。 ゆえに乗り物酔いをしやすい人は注意が必要である。
 さらに、車両の隅は大きく絞り込まれ、窮屈な印象を受ける。特に車内ドア付近はドア窓が小さい 上にデッキが薄暗いため圧迫感が大きい。また車内の随所に修理の跡がみられるがきれいに 仕上がっておらず見苦しい。製造から約20年、一般車両とは違う車両構造であるが為に廃車が 近づきつつあるのではないかと感じている。



写真5 E351系スーパーあずさ



4. 一般社会における「あずさ」

 特急あずさは1977年、狩人のヒット曲「あずさ2号」でその名を世間に知らしめた。
この歌は都会での愛する人との暮らしに終止符を打ち、新しい恋人と特急「あずさ2号」に乗って 信州へ旅立とうとする女性の複雑な心の内を歌った曲である。
 現在、新宿発の下りあずさの号数は奇数であるが、1977年当時は上下の列車それぞれ発車順に番号を 付けたため新宿を2番目に発車するあずさ号があずさ2号となった。1978年のダイヤ改正からは上りは 偶数、下りは奇数という現在の法則で番号を付けている。

 また、サスペンスドラマでも特急あずさは多く登場している。
・日本テレビ系列 火曜サスペンス劇場 <女弁護士高林鮎子>
 「L特急あずさ19号 逆転の殺意」「L特急あずさ13号の女」
・テレビ朝日系列 土曜ワイド劇場 <西村京太郎トラベルミステリー>
 「あずさ3号殺人事件 京都−信州、婚前クイズ旅行のワナ」
 「裏切りの中央本線 L特急あずさ21号殺人事件 上高地、大正池に映る青春の影」
・テレビ朝日系列 土曜ワイド劇場 <森村誠一の終着駅>
 「信濃大町発7時53分あずさ8号殺意のめぐり逢い ホテル逆密室の謎」
 「誇りある被害者 新宿−白馬、L特急あずさが結ぶ複合殺人」
 「悪の条件 新宿発特急あずさ 謎の女と消えた1億円!! 欲望と殺人の罠に刑事が堕ちた!?」
 「新宿着スーパーあずさ22号の殺人同乗者 消えた姉と三千万の行方… 顔のない脅迫者を追う!!」
・TBS系列 月曜ゴールデン <西村京太郎サスペンス>
 「十津川警部シリーズ 特急あずさ殺人事件」
・BSジャパン BSミステリー <西村京太郎サスペンス>
   「トラベルライター佑子 特急あずさ号の悲劇 信州美ヶ原殺人事件!」



5. これからの「あずさ」

 特急あずさは東京と信州を結ぶ交通手段において運賃の面で鉄道に勝る高速バスや、近頃急速に発達 しつつあるツアーバスとライバルである。
 だが安全性、正確性においては鉄道を超えるものはないのである。それらを踏まえ、これからは乗客に 車内で快適に過ごしてもらえるような演出が必要であると思う。
 速達性を追求したE351系では快適性が損なわれてしまった。 だがE257系の快適性はE351系と比較しかなり向上しており、これからの中央線特急としてふさわしいと感じる。
 また、以前JR西日本の特急列車に乗車した際、車掌が沿線の観光地、名所、名物の案内を行っていた。 JR西日本の特急電車は旧型車両が多く、車内が快適とは言い切れない部分もあるのだが、そのような観光案内 のおかげでかなり楽しい旅ができた。そのような点はぜひともJR東日本も見習ってほしい。
 まだしばらくは遠い話であるが、甲府付近まで中央東線を沿うように、リニア中央新幹線の開通が予定され、 開通後中央東線を取り巻く状況は大きく変わると予想される。
 長年続いた東京と信州を結ぶ使命が新たな交通手段に引き継がれるまで無事故で活躍を続けて欲しい。



参考文献

・JR全車両ハンドブック2000 レイル・マガジン9月号増刊 第17巻第11号 ネコ・パブリッシング
・鉄道ピクトリアル 特集183・189系電車 No.832 2010年4月号 鉄道図書刊行会
・鉄道ジャーナル  列車追跡シリーズ ニューあずさ信濃路を行く No.330 1994年4月号
鉄道ジャーナル社
・土曜ワイド劇場情報サイト・土曜ワイドステーション  http://nsm.s35.xrea.com/dws/
・テレビドラマデータベース              http://www.tvdrama-db.com/
写真引用
・181系 写真集 みすずのわだち −中山道鉄道計画から松本運転所まで− 発行 松本運転所(非売品)





 
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