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〜 寝過ごし鉄 〜

社会交通工学科2年 9112番 東山 洋平

1.はじめに

 寝過ごし鉄とは電車に乗っているとき意識がフェードアウトして目的地を通過することを得意とする鉄ちゃんのことである。実体験を踏まえながら寝過ごし鉄の魅力を紹介する。



2.パターンA「起きても起きても方南町」

 方南町は丸の内線の駅の一つであるが、本線ではなく支線にある駅である。丸の内線は池袋から都心を経由し荻窪まで結ぶ地下鉄であるが、この本線沿いに車庫を設置できる用地が少なく、少しはなれた中野富士見町に車庫を設置した。この車庫と本線を結ぶために作られた支線が、中野富士見町〜方南町間である。本線は6両編成であるが、支線は車庫から本線への送り込みの電車を除いて、支線内折り返し運用の3両編成であり、地下鉄としては短いことが特異な点である。
 
 この支線に乗ったときに寝過ごし鉄を発揮した。それは5月の出来事である。
 目的地である中野坂上に到着する前に睡魔に襲われて寝てしまうのである。電車は支線内を何度も折り返して運行されているので、寝過ごすと逆方向に連れていかれてしまう。意識を取り戻して起きるのは方南町であったが、もう一度中野坂上に向かうと睡魔に襲われてしまう。これを4回繰り返し、起きるたびに、方南町のホームを見ることになった。これを私は、起きても起きても方南町現象と呼んでいる。

 丸の内線の支線区間は片道6分であり、折り返しの停車時間を5分と考えると往復で20分強である。この20分強という時間が私にとっての睡眠の周期と一致しているのであろう。




図1 丸の内線支線地図



3.パターンB「終電で寝過ごす」

 これは今から1週間前の出来事である。その日は時間が遅く、大江戸線の終電で自宅がある国立競技場を目指した。しかし、寝過ごし鉄は終電であっても寝過ごすことを得意とするので、終点の汐留まで行ってしまう。反対方向の時刻表を見たが、終電はもう終わっており、汐留の近くに終電が遅いJR線の新橋があるので望みを託して携帯電話の乗換案内で他のルートを検索した。しかし、JR線も終電が終わっており、検索結果は始発の4時40分と表示された。
 残る交通機関はタクシーであるが、距離を考えると2,500円以上かかるので使いたくはない。新橋周辺の安く泊まれる場所も探したが、飲み屋街で終電を逃す人が多いせいなのか、ネットカフェでも6時間で2,500円と他の地域よりも相場が高いと思えた。

 最後の手段は徒歩であるが、山手線のほぼ反対側(短径の東西方向なので、長径の南北方向よりはマシだが・・・)に行くことになるので、大分歩かなければならない。しかし、最もお金がかからない方法なので、徒歩が最善の選択肢であった。
 覚悟をして、パソコンが入ったカバン(おそらく8kgくらい)を肩にかけながら、ひたすら歩き続ける。途中、鉄道愛好会のメンバーであるY氏から携帯電話で応援もあり、街角に立っているお姉さんから「オニイサン、マッサージしていかない?」と違う人から4回声をかけながらも、やっとのことで深夜の3時に自宅に到着した。




図2 乗換案内検索結果(イメージ)



4.寝過ごし鉄の魅力

 寝過ごし鉄の魅力といえば、起きた瞬間に想像もしない場所にいるという非現実感が味わえることである。車窓には見たことがない景色が流れて、次の駅がどこだがわからないという冒険性もたまりません。しかし、その日の予定しだいでは「時間に間に合わない・・・」、「終電がない・・・」などの都合が悪い現実が思い起こされてくるので、リスクが伴ってくることを留意しましょう。

 寝過ごし鉄を満喫するためには、次の予定が大切なものではなくすっぽかしても構わないものであるときにおこない、意識して寝ようとはせず、いつの間にか寝てしまったというような、睡魔による受動的な睡眠をするように心がけましょう。
 さあ、明日から寝過ごし鉄の仲間入りへ!



参考文献

井上昌次郎著 「Bioscience Series 睡眠」化学同人 1988年


 
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