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〜 あまり知られていないシステム「マルス」 〜

社会交通工学科3年 8072番 柴田 直輝


 皆さんは、旅行に行く時、みどりの窓口で切符を買うことのある人がいるだろう。 しかし、こちらの座席の要望にこたえ、なおかつ二重発券のないようにチェックしているシステムはご存じないだろう。 今回はそのシステム「マルス」に焦点を当てる。



写真1 切符




写真2 みどりの窓口



マルスとは

 JRの指定席券を主として、乗車券類・イベント券などの座席管理・発行処理および発行管理(精算業務)を行う 巨大なオンラインシステムであり、ホストシステム、端末ともに「マルス(端末)」と呼ばれることが多い。
 名称について、元々は"Magnetic electronic Automatic seat Reservation System"(磁気的電気的自動座席予約装置)の略 とされていたが、現在では"Multi Access seat Reservation System"(旅客販売総合システム)の略となっている。 ローマ神話の軍神マルスにかけたネーミングでもある。アルファベットでは"MARS"と書くが、一般にはカタカナで「マルス」と書かれる。 システムの構成は下の図のようになっている。(この図はあくまでも概要)
 中央装置(ホストコンピュータ)は東京都国分寺市にあり、 国鉄分割民営化以後は鉄道情報システム株式会社(JRシステム)が保有・運営している。中央装置で一括管理する集中型をとっており、 中央装置は、歴代日立製作所の大型コンピュータ・超大型コンピュータが採用されている。 もともとは鉄道切符(乗車券類)の発売のために開発されたシステムだが、現在では乗車券類だけでなく、 航空券、宿泊券、遊園地や展覧会などイベントの入場券等の販売も行えるようになっている。

 JRの鉄道駅や旅行代理店に設置される端末(MR端末、JR東日本では主にMEM端末=JR東日本の子会社である ジェイアール東日本情報システムが、JR東日本向けに開発した端末)とは、 鉄道情報システムが管理するJRネットなどを経由しホストと接続されている。また、 JTBや近畿日本ツーリストなど、大手旅行会社の旅行業システムともオンラインで接続されており、 接続されている旅行会社に設置されている旅行業端末でも、JRの指定券などが発売できる。 端末で管理されている座席は、JRの新幹線や特急列車や、急行・快速・普通列車の「座席指定席」を中心に、 「ドリーム号」などJRグループのバス会社およびこれらと共同運行する高速バスの座席指定席などである。 バスの座席については、JRシステムなどで新たに開発された座席予約管理システムである 「高速バスネット」に移行する方策が採られている。



なぜマルスが作られたのか

 マルスができる以前は、その列車の始発駅が属する指定席管理センターで、 列車ごとに日別の指定席台帳を作って各列車の指定席を管理していた。 駅で切符の申込みを受けた際は、駅員が電話でセンターへ問合わせ、 センターでは指定席台帳から空き座席を探し出して見つけた座席の座席番号を回答し、 駅ではその座席番号を指定券に書き写して発券していた。
 指定席管理センターでの予約処理はおおよそ以下のとおりであった。

@予約処理を行なう職員は、方面別の指定席管理台帳が収納されている、回転テーブルの前に着席している。

A駅係員などからの指定席要求に対し、かなりの速度で回転しているテーブル(直径約2m、約8秒前後で1回転)から、該当の台帳を取り出す。

B台帳に席の割り当てを行なう。

C問い合せ元への回答を行なう。

D書き込んだ台帳を、回転テーブルの所定の位置が自分のほうへ来た時に正確に投げ戻す。

 これらの作業には、かなりの技を駆使する必要があった。ベテランになると、 1メートルぐらい離れたところからでも所定位置に戻せるという、まさに職人技をもって対処していた。
 しかし、この方式では発券に多大な時間を要し、指定席を連結する特急・急行列車が増加するにつれ、 膨大な量の申込みを捌くことができなくなっていった。指定席を必要とする利用者が居るにも関わらず、 発券が間に合わず、空席を残したまま列車が発車してしまう笑えない事態が発生していた。さらに、 ほとんどの過程を人間が行うため、聞き間違いによる予約指定ミス、書き間違い、回答の言い間違い、 転記ミスなど、発券ミスを引き起こす要因が数多くあった。そのため、当時の鉄道技術研究所の穂坂衛が、 アメリカン航空が研究していた座席予約システムSABREなどを参考にしつつ、 世界初となる列車座席予約システムの機械化の研究を1957年に開始した。
 翌年日立製作所と共にマルスの開発が開始された。




図1 マルスの進化の過程[*1]



現行のマルスシステム

 現在使用しているマルスは、2002年10月から稼働を開始した「マルス501」である。 2003年10月にはJR各社の個別の要求に対応できるようになった。また、システムの主要部分についてサーバー化が2004年にかけて進み、 指定券自動券売機(MV端末)の機能増強も同時進行。指定券の直接サーマル券化も始まった。
 2010年現在、稼働している端末機種で顧客操作型は(MV端末)MV10・30・35・40 係員操作型は(MR端末)MR11・12・12W・20・31・32であり、 そのうち係員操作型MR11・31は旅行会社 (AGT) 用でプリカット紙(あらかじめ85mm・120mmに切断済みで、 右側に紫色の連番が入っている)を使用、 顧客操作型MV40はクレジットカード決済と5489サービス・エクスプレス予約・JR九州インターネット・電話予約受取り専用でありまた、 MV40、MR31・32は従来からあったカセットリボン(熱転写)による印刷から感熱印刷方式になった。 MV35はカセットリボン式と感熱印刷式の両方がある。


表1 マルス開発年表[*2]





参考文献

 みどりの窓口を支える「マルス」の謎  著者:杉浦一機
  [*1] みどりの窓口を支える「マルス」の謎P62・63より抜粋
  [*2]みどりの窓口を支える「マルス」の謎P220・221より抜粋




 
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