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中央東線の高速化

社会交通工学科2年 長沼 諒太

1.はじめに
 中央東線は、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本という。)の主要幹線であり、更に、首都圏と甲信地域をつなぐビジネス・観光線として、長野県の発展に大きく貢献している。
 また、中央本線(中央東線及び中央西線)は、長野県と首都圏、中京圏、関西圏とを結ぶ交通手段ばかりでなく、今後危惧されております大規模な東海地震の発生時には、東海道新幹線の代替補完として、首都圏と関西圏とを結ぶ日本の大きな大動脈となる路線でもある。
 そのため、「中央東線の高速化を主軸とした利便性の向上と地域活性化」は、21世紀における地域社会全体で議論するべき重要なテーマの一つであると考える。
 中央東線の高速化と利便性の向上は、私たち中南信地域に暮らす人々ばかりでなく、沿線住民や日本の社会経済また、地球環境の保全にも大きな影響力を持つものであり、長野県、山梨県及び中央東線沿線の関係市町村が連携し、JR東日本とともに高速化を進めながら、だれもが受益者となることができる方法を模索し、検討していく必要がある。




1−1.中央東線の運行状況
 首都圏と長野県とを結ぶ中央東線は、JR東日本の主要幹線であり、中南信地域から首都圏へのビジネスや観光における最も一般的な移動手段として活用されている。中央東線の特急列車である「スーパーあずさ」「あずさ」は、およそ1時間に1本の割合で1日あたり36便(上り・下り合計、臨時を除く)が運行されている。松本〜新宿間の36便中の所要時間を比較すると、最速便は「スーパーあずさ19号」で2時間26分となっており、最も遅い便では約3時間、平均所要時間で2時間40分程度を要している。また、停車回数が多く、朝の首都圏における通勤ラッシュの時間帯にかかる便は所要時間が長くなり、日中の便は所要時間が短くなる傾向にある。




写真1 E351系スーパーあずさ




写真2 E257系あずさ



1−2.中央東線以外の移動手段との比較
 乗り場は4番線だけである。1〜3番線は内房線である。側線が敷かれ、幕張車両センター木更津派出が置かれており、久留里線の車両が置かれている。
 「(スーパー)あずさ」の主な運行区間である松本〜新宿間において、鉄道以外の交通手段としては、高速バスや自家用車などが挙げられる。高速バスの松本〜新宿間の所要時間はおよそ3時間10分程度であり、「(スーパー)あずさ」よりやや長くかかるものの、片道運賃3,400円は、「(スーパー)あずさ」(6,510円)の約半額程度と安価だ。自家用車の所要時間は、約3時間(途中休憩含む)と言われている。費用については、高速使用や燃料等を含めると、片道7,000円程度が必要となり、単身での移動に関しては「(スーパー)あずさ」より割高になるが、乗車人数が増加しても総費用は変わらない。これらの移動手段を比較すると、「(スーパー)あずさ」には、「定時性」「快適性」という強みがあるが、「価格」「所要時間」については、他の移動手段との明確な差はほとんど無いように思われる。



1−3.全国における高速化の取り組み

 鉄道の高速化に関する国の方針として、旧運輸省(現国土交通省)の諮問機関である運輸政策審議会において以下の答申が出されている。「5大都市(東京、大阪、名古屋、札幌及び福岡)と地方主要都市を結ぶ主要な在来幹線鉄道の最速列車の表定速度を、線形改良・踏切除去・保安対策の強化等により、時速100km台にまで向上させることを目指す。」(平成12年8月1日、運輸政策審議会答申第19号より)


1−4.全国における幹線鉄道の高速化動向
 一方、JRにおいても(旧)国鉄時代より、幹線鉄道のうち新幹線が並行して通らないルートについては、積極的に高速化を進めてきている。
 すでに、函館線、常磐線、日豊線などについては、著しい高速化が実現しており、表定速度も、函館線の106.2km/hをはじめ、3線とも100km/hを越える速度での運行が実現している。
 幹線鉄道の高速化については、前記答申のとおり、時速100km台にまで向上させるという具体的な指針があり、全国ではすでに実現している例も複数報告されている。
 一方、中央東線における表定速度は、最速で92.5km/h、平均で83.0km/h、最も遅い便では71.8km/hと、全国的に低い水準にあり、中央東線は、高速化に向けて改善していく必要性が高い路線であると言えるだろう。



1−5.山梨県の基礎調査から
 鉄道高速化に向けた取り組みで参考とすべき先例としては、同じ中央東線沿線に位置する山梨県において、平成10年〜12年にかけて「中央線高速化基礎調査」が行われていた。
 調査内容は、高速化の妨げになっている山間部特有の急勾配や急カーブの改良、新型車両の導入、踏切廃止等といった施設面での改良策のみならず、首都圏での課題までを含んだ広範で多面的なものである。
 同調査では、改良等に必要な事業費と、高速化による総合的な経済効果を検討した結果、「十分な費用対効果を得ることが可能である」とされており、現在、その調査に基づき、山梨県内においては、県が中心となって、中央東線の高速化をはじめとする利便性向上に向けた取組みが行われている。
 今後は、山梨県をはじめとする沿線地域及びJR東日本との相互理解を深めるとともに連携を強化し、新しい高速化の方策をともに検討していく必要があると思われる。



2.高速化のための改善ポイント


 鉄道を高速化する手法には、大きく分けて「設備の改善(ハード面)」と「運用の改善(ソフト面)」が考えられる。設備の改善については、カーブの直線化、迂回線のトンネル化、高架化など、そのウィークポイントに直接手を加えるため、効果は目に見えて現れるが、その反面、莫大な費用を伴う。そこで今回は、投資額が比較的少なくて済む「運用の改善」を主軸とした高速化のための改善方法を検討してみる。
 今回検討する改善方法は、「首都圏における表定速度の向上」「車両の高速化」「単線区間の解消と住民理解」であり、これらをあわせることにより、総合的に速度の向上効果を生み、かつ副次的な効果を求めようとするものである。



2−1.首都圏における課題の克服

  • 新宿〜三鷹間の複々線における複々線使用の適正化。
  • 現在の線路別複々線(上り下り上り下り)を方向別の複々線(上り上り下り下り)に変更し、スムーズな列車の流れと、利用者の利便性向上を図る。
  • 高速走行が可能な通勤列車(通勤型タイプ)の導入を図る。
  • 中央東線沿線自治体の連携による三鷹〜立川間の複々線化の早期実現を図る。
  • 沿線住民をはじめ、行政、JR東日本等全てが受益者となる施策の模索をする。



2−2.高速走行が可能な特急列車の導入
  • 中央東線の高速化を図るため、「スーパーあずさ」に替わる高度な振子機能を持った特急列車の導入を図る。(E257系は、他の路線への流用が可能)


2−3.単線区間の解消と住民の理解

  • 茅野〜岡谷間における単線区間の解消を図る。
    沿線地域の協力および上下分離・分割方式の検討が必要である。
  • 茅野駅の構造改善を図り便利な接続ダイヤにする。
    茅野駅を下り線における拠点とし、諏訪地域における鉄道条件の向上を図る。
  • 高速走行が可能な通勤列車(近郊型タイプ)の導入を図る。
  • 地元住民の協力と理解を得る。




写真3 E233系中央線快速電車




写真4 115系普通電車



3.都市鉄道等利便増進法案(国土交通省作成)

 国土交通省が作成した都市鉄道等利便増進法案が、平成17年2月1日に閣議決定され、第162回国会(平成17年通常国会)に提出された。この法案は、都市鉄道の既存施設を活用しながら高速化や利用者の利便性の向上を図るとともに、駅周辺の施設整備を一体的に改良することで、利用しやすい駅に整備するなどの取り組みを支援・促進するための新たな制度や仕組みを規定するもので、鉄道事業者間や地元自治体の協議を前提に、国土交通大臣の裁定や事業実施命令を含めた実効性のある制度を目指している。この法案では、「都市鉄道等の利用者の利便の増進を総合的かつ計画的に推進する」ことを目的としており、高速化を前提とした利便性の向上も基本方針の一つになっている。
 また、地方公共団体が鉄道事業者等に対して、同法案に該当する事業の実施を要請することができるようになっており、要請を受けた者は、その要請を受け入れるか否かについて遅滞なく公表しなければならず、要請を却下する際には、その理由を明らかにしなければならないとされている。
 中央東線における新宿〜八王子間の課題は、まさにこの法案の基本方針に該当するものであり、高速化(首都圏における諸課題の克服)において、重要な鍵を握る法案であるため、今後、注目をしていきたい内容であると考える。
 もちろん、実際の使用路線等については一切触れられてはいませんが、E351系(スーパーあずさ)の後継車両として導入していただくのが最良ではないかと思われる。
 しかし、どんなに優れた車両を導入しても、その新型車両が本来の性能を発揮できるような環境でなければ意味がないため、中央東線沿線自治体とJR東日本との連携を密にするなかで、列車走行に係る環 境整備を図る必要があるのではないだろうか。





 
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